ぱせりんの小説記

小説をただただ垂れ流すだけの記

童話 くま と ハムマン

くま と ハムマン
(ハムマン成分が足りているとは言ってない)
↓元ネタ

ご飯を求めて山からノシノシと降りてきた熊さん。
辺鄙な港にやってきたらなにやら刃物を持った娘っ子が震えながら立っています。

熊さんも刃物は怖い。
というかとがっているものはだいたい痛いと知っている。性根は臆病ですし。
だからちょっと脅かしてやれば逃げてくれるだろう。

ガオーッ!と一声。ちょっと抑えめに。
でもその娘は、そんな抑えた声でも『ピッ』と一声上げてへたり込み、泣き始めてしまいました。
あわあわする熊さん。自分の声とこの娘の泣き声でたくさん人が来ます。
あっという間に囲まれてしまいました。

その中で冷静沈着で帽子を被った人が見えたので、その人と話して誤解を解こうと話しかけました。
その人も『ヒッ』と言って長い銀髪の娘の後ろに隠れてしまいました。
『わ、私の持っている勲章にお前が食べられそうなものはないぞ!』
熊さんは何を言ってるかわかりませんでした。

その勲章っ娘(?)の前で壁になっている娘が熊さんに話しかけます。
『わたくしはヨークタウンと申します。熊さん、指揮官のもとにご案内しますね』
やっと落ち着いて話ができそうだと、熊さんも一安心。

『ようこそ熊さん。こんな辺鄙な港に何用でございましょうか?』
言葉だけ見ると体裁は整っているが、手が震えているのが見え見えです。熊さんもちょっと不安そう。
『そういえば、御用を聞いておりませんでしたね。指揮官のところへお連れすれば解決するかと思いまして…』
この銀髪の娘も少し抜けてる感じがします。

熊さんはため息一つ、お話をするために後ろ足2本でスクッと立ち、

「冬も近いのでな。食べ物をと思って山を降りてきただけだ。」

と一言。

『に、人間はともかくこの娘らは渡さんぞ!!』
足が震えてますが、指揮官と呼ばれていた方がすごく長い刃物を持って凄みます。足が震えてますが。
一方隣にいたヨークタウンさんはキッと目つきが変わり戦闘態勢。指揮官よりこの娘の方が怖いです。

「待ってくれ、別にあんたたちを食おうなんてこれっぽっちも思ってない。」
「確かに俺らは種族的には雑食だけど、俺は肉よりも木の実とかのほうが好きなんだ。」

向けられた刃物と敵意に押されやっぱりあわあわする熊さん。
これでは解ける誤解も解けません。

「……とはいえ、アポもなしにのこのこ来たらそりゃ誤解も生むか……」
「指揮官といったな。不躾なのは承知の上で、あればでいいんだが、木の実類…とくにどんぐりあたりを分けてはくれないか。」
「お返しは…そうだな、熊らしく鮭でも送ろう。もうそろそろ旬だしな。」

指揮官さんとヨークタウンさんは目を合わせ戸惑いましたが、『まあ害になるわけでもなし』という結論に至りました。

駆逐艦と呼ばれるちっこい娘たちは、自分達が持っていたどんぐりや木の実を熊さんのところに恐る恐る持っていきます。
熊さんはひとりひとりにありがとう、ありがとうと言って行きました。
そんな姿を見るうちに、駆逐艦たちは熊さんと一緒に遊ぶようになりました。
けれど、一番最初に泣かせてしまった娘は来てくれませんでした。

一日中駆逐艦たちと遊んだ熊さんは、

「これは美味しい鮭を持ってこないと恨まれてしまうなぁ」

と言いながら、大きな背いっぱいに広がった風呂敷(中身は木の実がたくさん)を背負って別れを告げます。

『待ってほしいのだ!』

大きな声が熊さんの背中に届きます。
そこにいたのは、最初に泣かせてしまった駆逐艦の娘です。

『ほ、包丁を向けたのはいきなりあんたが出てきたからで、は、ハムマンは…』
なにやら言いたげなこのハムマンという娘。熊さんはゆっくりその娘の話を聞きます。

『う〜……突然包丁を向けて……ご、ごめんなさい…』
どうやら謝りたかったようです。熊さんはそんなこと気にしていなかったので、大きな手でその娘の頭をポンポンと撫でました。
また『ピッ』と声を上げられてしまい熊さんもビクッとしましたが、ポンポンするうちに慣れてきたようです。

『今日はあんまり遊べなかったから、ハムマンと遊ぶためにまた来てもいいぞ!』
熊さんはふふっと笑うと、
「ああ、また来るよ。その時は包丁なんて向けないでくれよな?」
と冗談っぽくハムマンへ言葉を向ける。 『も、もう向けないのだ!!』
ハムマンは少しプンプンしながら応える。でもどこか嬉しそうだ。

『そうだ、熊さんにこれをあげるのだ。』
ハムマンが熊さんへ真っ赤なスカーフを巻いてあげます。
『これでまた熊さんが来ても熊さんだってわかるのだ!』
熊さんも嬉しそうです。

「ああ、またここに来るときはこのスカーフを着けて来るよ。」
『約束だぞ!』

そう言って、熊さんは山へ戻っていきました。

その後、たくさんの鮭が港に送られてきましたとさ。めでたしめでたし。